前回、ピースボートのエコッシップを造船する予定になっていたアークテックヘルシンキ造船所(名前が長いので以下はAHSで表示)が親会社であるロシアの国営企業USCから売却されることが正式に決まった話を書かせていただきましたが、その後の調査などでまた色々と疑問と前途が多難であることが分ってきました。
それを書く前に今回はエコシップとAHSとの契約の経緯から改めて振り返りながら、今回の騒動をもう一度おさらいし直してみたいと思っています。
まずは2017年5月30日にジャパングレイスはAHSとの間でエコシップの造船の仮契約(Letters of intent )を結びました。このニュースは各国で取り上げられ、エコシップの公式ホームページでも大々的に取り上げられました。
この時にあまり報道されていませんでしたが、AHSはロシアの国営企業でありかつロシア最大の造船業であるUSCの100%子会社であり、アメリカからロシアのウクライナ介入のために経済制裁を受けている企業であるにもかかわらずにジャパングレイスが契約しました。
また親会社のUSCはホームページを見れば分るように駆逐艦や潜水艦、それも原子力潜水艦なども手がけているピースボートが一番嫌うはずの反平和、原発推進企業なのに契約をしています。
ちなみに、AHSはエコシップの目玉であるLNGに関してはかなり実績がありますが、ただ本業は砕氷船という北極海などの凍った海を航行する船をメインに作っている会社で、クルーズに関しては15年以上作っていませんでした。(クルーズ船はAHSになる前の別会社の時代に造っていました)また北欧の会社なので冬場は海は凍るために、納期の4月に間に合わすためには、かなり早めに完成させなければいけないというハンディまであるのに何故この企業という気持ちがありました。
普通で考えればこんな色々と問題がある企業に任せるより、イタリアあたりの造船所でお願いする方がよほどスッキリすると思います。実際クルーズ船もLNGで動く船もかなり出てきていますのでAHSでなければエコシップは無理だという事はないはずです。
それじゃ何故AHSに拘ったのかというとこんな記事がありました。
先程のUSCの公式ホームページのニュース記事です。AHSとジャパングレイスが仮契約した2日後の2017年6月1日に載せた記事によりますと、ロシアの銀行筋はエコシップの造船の費用を積極的に融資する用意があり、なおかつ製造費用の一部を免除する予定もあると書かれています。これはピースボート側にとってはとてもありがたいことです。多少のリスクがあるかもしれないですが、エコシップ実現のために大義を捨ててこの話に乗ってしまったのでしょう。
エコシップの建造費用は5億ドルとか言われています。しかし吹けば飛ぶよな中小の旅行代理店であるジャパングレイスが簡単に集められる金額では到底ありません。
確かにシンガポールで1億ドルのファンドを立ち上げたというニュースも流れました。
仮にその全額が集まったところで、エコシップの建造費にはとても足りません。
噂ではアラブ系の大富豪が出資したという話もありますが、石油を使わない船にわざわざ投資するなんて本末転倒のような気がしますので、多分デマでしょう。
またジャパングレイスが今でのクルーズで儲けたお金をプールして、それを建造費にするなどという途方もない夢を語っている方もおられますが、それも現実的ではないと思います。
結局はUSC側のうまい話に乗ってしまったというのが真相なのでしょう。
正直言って、このままうまい話が進めば、2020年にエコシップの完成もあったのかもしれません。でも対ロシアの経済制裁はアメリカだけではなくEUにも広がり、AHSはフィンランドの金融機関からの融資が受けられず、またロシアからの融資もロシア国外に持ち出すことが出来ずに、エコシップが作れるような状態ではなくなってしまいました。
それどころかAHS自体が満足に船を造ることが出来る状態ではなくなってました。
ちなみに、AHSが正式に契約した最後の船はユーリ・クチエフというタンカーで2016年6月のことでした。そしてやっとこの2019年5月に完成しましたが、これがAHS最後の船になりました。
これから考えると、結局エコシップはAHSと正式契約まで行かなかったのでしょう。一部報道機関では仮契約期間が切れて、契約が結べな買ったと書いているところもあり、Yleのように契約寸前までいったが、契約を結んでもAHSが融資を受けることが出来なかったために造船することが出来ないために結局受注までにいたらなかったと報じているところもある。
さらに追い打ちをかけるような出来事として、資金繰りが悪化し、下請け業者や従業員の支払いも遅配するようになり、ついに受注していた船の納期も大幅に遅れ約5000万ドルの違約金が請求される事になってしまいました。
さすがに受注は出来ず、負債は増えるばかりの上に、違約金まで発生するとなると親会社のUSCも耐えきれずにAHSの売却を考え始め、何度か交渉がまとまりかけては破断して、ついに昨年末に2019年春までに売却先が決まらなければAHSの閉鎖も考えるという状態までなりました。
しかし結果は前回に書いたとおり、売却先も決まり、5月20日は新しい会社ヘルシンキ造船所に全て移行しました。
これで、AHSのようなロシアの国営企業ではなく、あくまでロシア人が経営する民間企業になったので、経済制裁の対象にならず、今後は金融機関からの融資も受けられ受注もどんどんと入ってくるという強気の発言がどんどん出てきていますが、個人的には色々と疑問が出ます。
まず最初に確実に言えることはこの4月まではAHSはひとつとして正式な受注契約が行われていなかったことです。最後の正式契約は2016年の6月だから当然エコシップは入っていない。
このことは世界中の多くの報道機関が書いていることで、ジャパングレイスいくらAHSとは正式に2018年までに契約は完了していたといっても信用出来ない。
またエコシップの延期の問題も実際はAHSのゴタゴタに巻き込まれたことと、USCからの当てにしていた資金援助が出来なかったことのため、この2年間何ひとつ進展していなかったというのが事実だろう。それをあたかも船を作り始めている途中に船の安全基準変更の見直しが入ったために2年も延期するというのはあまりにも理屈に通らないし、どう考えてもウソとしか思えない。どうしても間違っていないというのなら世界中の報道機関を訴えて証明してほしいものです。
またUSCも売却が成立したと喜んでいるが、この売却劇自体なんだか、裏があるような気がして仕方がない。
まず契約内容だけど、わざわざ新会社ヘルシンキ造船所にAHSの資産と人材を移してまで売却した報酬がわずか6000万ドル程度とは呆れかえる。去年発生した違約金とほとんど変わらない金額だ。あとおまけのようにちっぽけな造船所も付いてきたそうだが、何故かAHSの莫大な負債はUSCが全額引き取るそうだ。その上新会社は既に17億ドルの引き合いが来ているそうで、その一部は仮契約まで進んでおり、どうもピースボートのエコシップもその中に入っているようだ。こうなると新会社は安い金額でとっても良い会社を買い取ったとしか思えない。
この内容ではどう考えてもUSC側が大損しているとしかないと思えないのだが、今後も発生する膨大な負債を考えての決断かと思うことも出来着ないことはないが謎は多過ぎる。
また新会社を買った相手というのが元海事副大臣だった人物だそうで、元政府関係者だ。
それを踏まえてふと思いつくのは、融資を受けるための偽装という事だ、今のまま国営企業だと経済制裁で融資は無理だが、全く別会社になった民間企業なら融資が受けられるだろうとふんだのだろう。
ただこんな子供だましのような方法で、融資をして貰えるのかどうかとなると、かなり怪しいとしか言えない。EUやアメリカがそれほどバカではないと思うからだ。
もし逆にヘルシンキ造船所がUSCと全く関係ない会社というのなら、エコシップには援助金も融資もされないだろう。それでも改めて仮契約したという意図は何なんだろう。
結局この2年何も進展しないままで、資金繰りも怪しい状態になっている現状を考えると、エコシッププロジェクトから手を引くのなら今のうちだよと言ってあげたい。
今なら誰も被害が出ないのだから。
個人的にはピースボートの考え方は決して嫌いではないのだけど、無理をしてひと山儲けようとして失敗するのを、黙ってみる気がないのが本音だ。
既に30歳を迎えた飛鳥Ⅱでさえ資金繰りが苦しくって新造船を諦めて、改装でお茶濁しするそうだ。日本のクルーズ人口はそれほど多くないのだから、自殺行為だけはやめて欲しいと思う。
コメント
Denさまの、いつもながらの卓越した情報収集能力と鋭い分析には敬服しております。
長期の旅行中(今回は国内ですが)なので、簡略に意見を申し述べます。
新ヘルシンキ造船所は、旧アークテック・ヘルシンキ造船所から、人的・物的設備等の純資産だけを引き継ぎ、負債については一切引き受けないことになります。
こういう譲渡方法は、一般には旧アークテック・ヘルシンキ造船所の株主と債権者を害することになるので、彼らから異議申し立てを受ける可能性が高いものです。
しかし、旧アークテック・ヘルシンキ造船所の株主は、その100パーセントをロシア国営企業USCが保有しているので、同USC自身が、資産譲渡を決定したものである以上、株主への詐害行為にはあたりません。
債権者については大いに問題ですが、このような資産譲渡の場合には、当該資産に対し担保権を持っている債権者については、譲渡側のUSCが、債務を清算して担保権を解除したうえで譲渡することになっています。
USCが、旧アークテック・ヘルシンキ造船所の全債務を弁済するとは、そのことを意味しています。
しかし、USCは、資産譲渡契約に支障となる担保付債権の弁済は必ずやるとして、その他の一般債務については弁済を拒絶すると思われます。
なんとなれば、旧アークテック・ヘルシンキ造船所は、100パーセントUSCの支配下にあったとしても、あくまでも経営的には独立採算制を取っているはずだからです。
つまり、旧アークテック・ヘルシンキ造船所が負った債務については、USCは、法的には基本的に弁済義務を負わないからです(USCが、連帯保証をしていた債務については、もちろん弁済義務が生じますが)。
何を言いたいかと申しますと、ピースボート(ジャパングレイス)が、エコシップのLOI契約に際し、手付金的な前払をしていた場合、エコシップの建造不能が明確になった以上、ピースボート(ジャパングレイス)は、一刻も早くその返還を求めることになるでしょうが、積極的な資産を全部新ヘルシンキ造船所に譲渡してしまった以上、その弁済能力は皆無とみるべきものだからです。
問題は、ピースボート(ジャパングレイス)が支払った前払金が幾らだったおかということですね。
造船金額の3パーセントとして約30億円です。
ピースボート(ジャパングレイス)が、エコシップ申込者から払込を受けた申込金の総額は、優に50億円を超えていましたから、その程度(30億円)は、旧アークテック・ヘルシンキ造船所に前払していたのではないでしょうか。
今回のUSC主導による旧アークテック・ヘルシンキ造船所の譲渡の背景には、ピースボート(ジャパングレイス)に対する前受金返還債務をチャラにしようとの企みがあるのではないかとも考えられます。
以上により、ピースボート(ジャパングレイス)の前払金は全く戻って来ない可能性が高いとみなければなりません。
そして、多くのエコシップ申込者は、ピースボート(ジャパングレイス)から、申込金の返還を受けられなくなる可能性が高いのです。
その意味で、Denさまが、ピースボート(ジャパングレイス)が、今エコシップ計画を中止すれば、被害者は誰もいなくなるという点についてだけは、ピースボート(ジャパングレイス)に対する遠慮が過ぎるのではないかと思います。
私の昨日のコメント中に誤記がありましたので、その訂正を兼ねて、ピースボート(ジャパングレイス)から旧アークテック・ヘルシンキ造船所に支払われた(可能性のある)手付金について付言します。
先ず、訂正の件ですが、手付金の額が、造船金額の3パーセントとして約30億円であるというのは、造船金額(約600億円)の5パーセントの誤記ですのでこの旨訂正します。
約600億円の5パーセントとみて約30億円ということです。
次に、両社間にこの手付金の授受があったとみる根拠ですが、ピースボート(ジャパングレイス)と旧アークテック・ヘルシンキ造船所が、エコシップについてLOI契約を締結した2017年5月30日ころには、旧アークテック・ヘルシンキ造船所が、他から受注していた船の納期が大幅に遅れたことにより約5000万ドルの違約金を請求される事態になってたとみられることです。
旧アークテック・ヘルシンキ造船所は、何んとしてもこの問題を解決出来なければ経営破たんに追い込まれる状況でしたが、さりとて5000万ドルもの大金を得る方法はなかったでしょう。
一般に銀行などのまともな金融機関では、損賠賠償支払のための融資に応じることは、決してないからです。
そこで、旧アークテック・ヘルシンキ造船所は、ピースボート(ジャパングレイス)との間でエコシップ建造についてLOI契約を結ぶにあたり、ピースボート(ジャパングレイス)に対し、将来本契約を締結することを前提としてピースボート(ジャパングレイス)その手付金名目で仮払をすることを条件にしたのではないでしょうか。
実際に旧アークテック・ヘルシンキ造船所が、相手方に5000万ドルもの大金を支払って問題の解決を図れたということは、同造船所が、その金をどこかから調達したということです。
その全額が、ピースボート(ジャパングレイス)からの手付金仮払によるものとは言い切れないまでも、その大半がピースボート(ジャパングレイス)からの手付金仮払であった可能性は非常に高いと思われます。
ピースボート(ジャパングレイス)としても、この時期には何んとしても然るべき造船所との間でLOI契約程度は結ばなければ、申込者に対する弁解にもならないという切迫した状況でしたから、本契約締結の際に手付金に充当されるのであれば構わないということで、手付金の仮払に応じた可能性が高いのです。
そのことが、ピースボート(ジャパングレイス)が、旧アークテック・ヘルシンキ造船所との間で正式契約を結んでいると強弁する理由なのでしょう。
この金銭授受は、手付金の仮払である以上、正式契約ができないと確定すれば、直ちに返還義務が生じます。
旧アークテック・ヘルシンキ造船所の親会社のロシア国営企業USCにとっては、旧アークテック・ヘルシンキ造船所の資産を他に譲渡するにあたり、大きな足かせになったことでしょうが、背に腹は代えられないということで、最後には一切関知せずとなったのではないでしょうか。
ピースボート(ジャパングレイス)の幹部さんたちは、普段からこのブログをしっかりとフォロウしているはずですから、事実と異なるというのであれば、速やかに反論をされれば良いでしょう。
いや、そうすべき社会的責任があるでしょう。
ピースボート(ジャパングレイス)は、エコシップの建造が不能に確定した以上、旧アークテック・ヘルシンキ造船所から直ちに仮払金の返還を受けたいところでしょう。
しかし、肝心のその返還義務を負う旧アークテック・ヘルシンキ造船所自体は、資産が皆無となり負債しか残っていない状態なので、これを返還することはできません。
そうなると、ピースボート(ジャパングレイス)は、実は旧アークテック・ヘルシンキ造船所に対し、手付金名目の仮払をしていた事実を世間に公表することが出来なくなってしまいます。
何んとなれば、ピースボート(ジャパングレイス)が、旧アークテック・ヘルシンキ造船所から仮払金の返還受けられなくなれば、そのこと自体が、ピースボート(ジャパングレイス)の信用不安をもたらすからです。
現時点で2000名に及ぶといわれるエコシップ申込者らが、エコシップが出来ないだけではなく、自らが支払った申込金の返還さえ受けられなくなる恐れがあると知ったら、大騒動にならないわけがありません。
このことが、ピースボート(ジャパングレイス)が、未だにアークテック・ヘルシンキ造船所の身売り問題について素知らぬフリをしている理由でしょう。
驚くべきことに、ピースボート(ジャパングレイス)は、今に至っても2年延期後のエコシップの申込勧誘をせっせと行っています。
残念ながらこのブログの存在自体を知らないひとが多いですから、嬉々としてそれに申し込んでいるひとも少なくありません。
他方、既存のエコシップ申込者の中には、ピースボート(ジャパングレイス)の相次ぐ約束不履行に愛想をつかしキャンセルするひとが続出しています。
ピースボート(ジャパングレイス)は、キャンセル者に返還する申込金をねん出するためにエコシップの新規募集にしゃかりきになっているのではないでしょうか。
新規申込者から支払われた申込金をキャンセル者に対する返還金に充てているとみることもできます。
そうであれば、典型的な自転車操業ですから早晩倒れることになるでしょう。
それより前に、遅れ遅れになっている新規チャーター船の発表が、6月に入ってもまだなされないことは、決定的な問題になります。
仮に近々何らかのチャーター船名の発表があったとしても、その実現性には大きな疑問符がつきます。
オーシャンドリーム号の所有会社であるseahowk社の親会社たるmaritime holdings社は、そのホームページ上に未だにエコシップが2020年に就航するものと大々的に掲載したままですが、このことは、同社が、エコシップの建造延期について何らの責任も負うものではないことを如実に表しています。
つまり、ピースボート(ジャパングレイス)の新規チャーター船の調達・運行に関しては、同社(maritime holdings社)は、何らの支援も行わないということでしょう。
ピースボート(ジャパングレイス)が、同社からの支援を受けないで独力で新規チャーター船を調達・運行出来るとは到底思えません。
既存のエコシップ申込者が、このことに気付けば雪崩を打ったようにキャンセルに向かうでしょうが、他方ピースボート(ジャパングレイス)が、数十億円に上るとみられるキャンセル返還金を都合できると考えるのは極めて難しいのではないでしょうか。
むしろ頼りの旧アークテック・ヘルシンキ造船所が、あのようになってしまった以上、エコシップの建造も申込金の返還も絶望的と思われますがいかがでしょうか。
ピースボート(ジャパングレイス)の幹部の皆さんには、この疑問に対し納得のゆく説明を行う社会的責任があります。
是非、この場でのご回答をお願いします。